小花衣 志乃(3話)

翌日の学校帰り。
志乃は事務所のビルに入るとまっすぐ打ち合わせ用の会議室に向かった。
ドアを開くと、既にマネージャーが席に座っていた。

「あ、おはよう志乃ちゃ…」

部屋に入ってくる志乃を見て、あっと声をあげる。

「どうしたのその髪、バッサリ切って…」
「あの!」

マネージャーの言葉を遮って志乃は叫んだ。


「私…事務所辞めさせていただきます!」


突然の言葉に、マネージャーも言葉を失った。目を丸くして立ち上がる。
志乃は続ける。

「私、やっぱりアイドルになりたい。その夢を叶えるためにはここにはいられないんです。ごめんなさい」

「そんな…急に言われても困るよ、もう契約済みの仕事もあるしさ…」
マネージャーは慌てて手帳をパラパラとめくりスケジュールを確認する。

「…すみません、お仕事や手続きついては後ほど親を通してご連絡させていただきます」

志乃は今開けたばかりのドアを開き、

「ここまで育ててくださったことには本当に感謝しています。今までお世話になりました。ありがとうございました!」

と一礼し、去っていった。

「ちょっと!」

マネージャーの怒ったような声が廊下に響き渡った。
前の志乃ならここで立ち止まり、謝りながら部屋に戻っていたかもしれない。

でももう違う。


事務所のビルを出てすぐ、志乃はスマホを手に取りオーディションの応募フォームを開いた。
必要事項を記入し、確認をする。

「送信…っと」

そっと人差し指でそのボタンを押した。
応募完了の画面が出ると、志乃はスマホをカバンにしまい大きく伸びをした。

視界には青空が広がっている。

これから始まる新しい世界に、志乃はまだ少しドキドキが治らなかった。

Adolescence

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