2021.09.17 14:50観音寺葉月(3話)「だから私は、ずっとここで1人で歌うだけでいいのです。歌うのは好きですから」葉月はそう言って微笑みながら庭園を眺めた。葉月のさらさらの細い髪が春風になびく。円はそんな妹の姿を見ながら呟いた。「……やっぱり勿体ない」「えっ…」「私は葉月の歌をたくさんの人に聞いてほしいの」今の会話で...
2021.09.16 14:57観音寺葉月(2話)葉月の暮らす観音寺家は、古くから続く代々大地主が主の由緒正しい家柄だ。そのため葉月たち姉妹も幼い頃から茶道、華道、日本舞踊などを習い、良家の娘にふさわしくなれるよう躾けられてきた。高校生になり、ある程度の自由を手にした葉月だが、自由はある日突然授けられると案外困るもののようだ。今...
2021.09.14 15:00観音寺葉月(1話)「ふぅ、ここなら誰もいませんわね」ある春の日のあたたかい午後の時間。観音寺葉月は、自宅の中だというのに人目を気にして辺りを見回していた。目の前に広がる広い庭園には色とりどりの花が咲き乱れている。誰も人はいないようだ。お父様もお母様も、奥のお部屋にいるし、大丈夫ね。すぅっと深呼吸し...
2021.07.28 10:00一ノ瀬佳音(3話)「あっミカからだ」その日の夜、ベッドに座りながらスマホをいじっていた佳音は、1件の通知が来たことに気づいた。「あっ、ユナからも…」それぞれのメッセージを開くと、どちらも昼休みに言っていたアイドルの動画リンクが貼られていた。先の時間に来ていたメッセージを開く。『これすっごくいいよ。...
2021.07.26 15:12一ノ瀬佳音(2話)ある日の昼休み。教室の隅で佳音のグループはこっそり持ってきた雑誌を読んでいた。カーテンに隠れて、窓辺から差し込む光を浴びながらパラパラとページをめくり続ける。「あっこの服かわいい」「どこ?あっここ近くにお店あるよ」「えー今度いこ!」「日曜ね」「あとでLINEで計画立てよ」周りのク...
2021.07.26 07:00一ノ瀬 佳音(1話)都内のとある中学校。「佳音〜、はやく帰ろうよ〜」夕日が差し込む放課後の教室の出入り口に、二人の女子生徒が中を覗いている。「まってまって、この荷物職員室に持っていかなきゃ」女子生徒たちを待たせているのは、一ノ瀬佳音。自分のスクールバッグを肩にかけると、山積みになったノートを両手で抱...
2021.05.26 11:42相澤胡桃(3話)はっと目を覚ますと、見慣れた天井が視界に広がった。「あ…」夢を見ていたようだ。窓の外をちらりと見ると、もう朝日が昇っていた。胡桃はゆっくりと上半身を起こし、伸びをする。壁にかかっているハンガーから制服を手に取る。まだぴしっと形の整っているブレザーを見るたびに、高校生になったのだと...
2021.05.17 15:00相澤 胡桃(2話)「お母さんお母さーーん!」数ヶ月後、胡桃はドタドタと騒がしくリビングにいる母の元へ向かった。外はもうすっかり冬の気温だ。胡桃は学校から、母も買い物から帰ってきたばかりで暖房が効いておらず、家の中はまだひんやりとしていた。「どうしたのよ〜」母はリビングのテーブルでココアと牛乳を混ぜ...
2021.05.16 15:00相澤 胡桃(1話)小さい頃に見た、テレビの中で歌い踊るキラキラした女の子達。その姿に憧れ、絶対にアイドルになろうと思った。「また落ちた…」自室の中で、相澤胡桃はひとりでスマートフォンを見ながらそう呟いた。1ヶ月前に受けたアイドルオーディションの合格メールがいつまで経っても届かないのだ。何も来ないと...
2021.03.12 14:08明星 ひな(3話)「ひなちゃん、本気で言ってるのぉ?」数分後、夕飯のカレーライスを食べながら母が心配そうにひなを見た。ひなはにんじんを噛みながらこくんと頷いた。「ひなにはこれしかないって思ったの」「でもねぇひなちゃん、アイドルってなろう!って言って簡単になれるものじゃないのよぉ、まずはオーディショ...
2021.03.11 14:10明星 ひな(2話)翌日の昼休み。ひなが図書室で借りた本を読んでいると、後ろの席の女の子二人がひなのもとへやって来た。ひなは読んでいた本を閉じ、目線をあげた。うるうるとした四つの瞳がこちらを見ている。「どしたの?」「あのね…」二人は目を合わせながら頷きこう言った。「お願いっ!」「明星さんに勉強教えて...
2021.03.10 13:55明星 ひな(1話)数学の定期テストの答案返却の時間。三星ひなが教卓の前に立つと、クラスからわっと歓声があがった。「すごいわ明星さん、また100点よ」先生がニコニコと微笑みながら答案用紙の花丸を指差す。「ありがとうございますっ」ひなはそれに負けないくらいの笑顔で答案用紙を受け取る。「すごいね、明星さ...